AIに任せられないもの ― みどりの日に考える、介護現場の「五感」の価値

AIに任せられないもの ― みどりの日に考える、介護現場の「五感」の価値

はじめに ― 5月4日、みどりの日に

おはようございます。木下です。

本日5月4日はみどりの日。「自然に親しむとともにその恩恵に感謝し、豊かな心をはぐくむ」ことを趣旨とした祝日です。北海道はようやく本格的な新緑の季節を迎えたところで、施設の庭木も日に日に色を濃くしています。窓越しに緑を眺める利用者さまのお顔も、心なしか柔らかい――そんな時期です。

この季節になると私はいつも、介護経営にとって今後10年の最大の論点であろう 「AIと人の役割分担」 について、改めて考え込みます。本日はみどりの日にちなんで、「AIに任せられないもの」――特に介護現場における五感の価値について書き残しておきたいと思います。

AI活用が当たり前になりつつある介護現場

ここ数年で、介護業界のAI導入は驚くほど進みました。当法人でも、

といった領域で実装を進めています。事務作業や数値分析の領域で、AIは間違いなく現場の力強い味方です。職員の残業時間も目に見えて減ってきました。

ただし、経営者として自分に問い続けていることがあります。それは、「AIに任せていい仕事」と「絶対に任せてはいけない仕事」の境界線を、きちんと見極められているか ということです。

ここを曖昧にしたまま導入を進めると、効率化の名のもとに、介護の本質が削られていく――そんな危うさを、私は最近強く感じています。

介護現場には「五感の仕事」がある

介護という仕事には、データ化できる部分とできない部分が混在しています。

これらは、ベテランの職員ほど無意識に拾い上げている情報です。「なんとなく今日は様子がおかしい」――この 職員の「なんとなく」が命を救った場面 を、私は何度も目撃してきました。

こうした感覚情報を、現時点のAIはほとんど扱えません。映像解析やバイタルセンサーの精度は確かに上がっています。しかし、人が肌で感じ、瞬時に統合して判断につなげる「身体的な直感」 は、機械では再現できないのです。

ここを誤解して「AIに任せれば人手はいらなくなる」と考えるのは、介護経営における致命的な錯覚だと言わざるを得ません。

「効率化されすぎた現場」が失うもの

AI導入を進めるうえでもう一つ気をつけたいのは、「人と人が触れる時間そのものがケアである」 という点です。

たとえば入浴介助の時間。機械浴の進化で、職員がほとんど触れずに入浴を完結させることも技術的には可能になってきました。腰痛防止や時間短縮の観点では大きな前進です。

しかし、入浴中の何気ない会話、背中を流すときの肌のぬくもり、「気持ちいいですね」と笑いあう一瞬――これらの 触れ合いそのものが、利用者さまにとっての精神的な栄養 であることを忘れてはいけません。

効率化を追求するあまり、

そんな「未来の介護施設」になってしまっては、いったい何のためのケアなのか分からなくなります。

経営者として大切にしたい発想は、「効率化で生まれた時間を、人と人が向き合う時間に再投資する」 ということです。AIで記録の手間を5分減らしたら、その5分を利用者さまの隣に座る時間に使う。この使い方ができるかどうかで、事業所の文化は確実に変わります。

みどりの日が教えてくれること

みどりの日の趣旨は「自然に親しみ、豊かな心をはぐくむ」――一見、介護経営とは関係ない祝日のように見えるかもしれません。しかし私はこの日を、経営者として自分の「感じる力」を点検する日 だと位置づけています。

経営者であっても、

こうした 数値化されない情報 を、自分の五感でどれだけ拾えているか。経営判断の一番奥には、いつもこの「感じる力」が必要です。

データだけを見て決める経営者になってはいけません。現場を歩き、においをかぎ、職員の声を聴き、利用者さまの手の温度を感じる。これができなくなった経営者は、AIをどれだけ使いこなしても、組織の本当の状態を見抜けなくなります。

ダッシュボードの数字が良好でも現場が疲弊している――そんなギャップは、いつも経営者の五感が先に気づくものです。

介護福祉学校の学生に伝えていること

私は北海道介護福祉学校で非常勤講師も務めています。授業の中で、学生たちによくこんな言葉を伝えます。

「皆さんがこれから出ていく介護現場には、間違いなくAIが入ってきます。でも、皆さんがこの仕事を選んだのは、画面の向こうの数字ではなく、目の前の人を支えたかったからのはずです。自分の五感を使って人を支える力 ――これだけは、何があっても誰にも譲らないでください」

技術はどんどん変わります。10年後、私たちの想像を超えた介護AIが当たり前になっているでしょう。それでも、現場で人と人が触れ合う仕事の本質は変わらない ――私はそう考えています。

学生たちには、AIを恐れる必要も、過信する必要もありません。ただ、自分の感じる力を磨き続けてほしい。これが、みどりの新緑のように伸びやかに育ってほしい彼らへの、私の願いです。

キャリアコンサルタントの視点から

キャリアコンサルタントの立場から付け加えると、AI化が進む時代だからこそ、介護職に求められるキャリア軸はむしろ明確になっていきます。

これからの介護職は、次の三層を意識すると、長く活躍できる人材になれます。

  1. AIを使いこなして「事務作業の負担」を減らす力
  2. AIには代替できない「対人ケアの質」を磨く力
  3. その両方を統合し、現場と経営をつなぐ「翻訳者」としての力

漠然と「介護を続けるか辞めるか」で悩むのではなく、自分はこの三層のどこを伸ばしたいのか を一度言語化してみてください。それぞれに合った研修・資格・経験の積み方があります。連休のうちに、紙とペンで30分書き出してみるだけでも、見えてくるものがあるはずです。

経営者がこの連休にやっておきたい三つのこと

最後に、経営・管理の立場の方へ、本日のうちにできるささやかな宿題を三つ。

  1. 自分の事業所の「AIに任せた仕事」と「人の手で守るべき仕事」を、紙に二列で書き出す
  2. その境界線が職員に共有されているかを点検する
  3. 連休明け最初の朝礼で、「AIで生まれた時間で、利用者さまとどう向き合うか」を一言伝える

経営者の言葉が、現場の文化をつくります。AIをどう使うか以上に、AIを使った先で何を残したいのか を、自分の言葉で語れる経営者でありたいものです。

おわりに ― 連休後半に、五感を取り戻す

GW後半、ここまで上手に休めている方も、まだ仕事モードが抜けない方もいると思います。本日はぜひ少しだけでも、画面から離れて、外の空気に触れてみてください。

新緑の色、土のにおい、風の音――自分の五感が動くとき、人の心も動きます。そして明日また現場に戻ったとき、利用者さまの手の温度や表情の変化に、いつもより少しだけ敏感になれているはずです。

AI時代の介護経営とは、AIに任せられるものをきちんと任せ、任せられないものを人の手で大切に守り続ける経営 のことです。みどりの日のこの一日が、皆さん自身の「感じる力」を取り戻す静かな時間になりますように。

よい祝日を、お過ごしください。

木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役
北海道介護福祉学校 非常勤講師

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