はじめに ― 連休3日目の朝に
おはようございます。木下です。
ゴールデンウィークも半ばに差しかかりました。家族と過ごされている方、久しぶりにゆっくり眠られた方、そしてシフトの関係で連休の中で出勤・休みが入り組んでいる方――それぞれのGWを過ごしていることと思います。
私は北海道介護福祉学校で非常勤講師を務めています。普段は経営者として現場に立ちつつ、教員として学生に介護の基礎を伝える――この二つの立場を行き来する中で、毎年この時期になると感じることがあります。それは、「現場で働きながら学び続けている方ほど、長く現場に残っている」という事実です。
本日は教員という立場から、連休中だからこそおすすめしたい「学びの引き出しの増やし方」について、書き残しておきたいと思います。
なぜ「研修」ではなく「自分の学び」が必要なのか
法人や事業所が用意してくれる研修は、もちろん大切です。しかし研修だけに頼っていると、どうしても 「与えられた知識」 にとどまりがちです。研修が終われば資料は片付けられ、半年後には記憶も薄れていく――これは多くの方が経験している話ではないでしょうか。
一方で「自分の意思で選び取った学び」は、不思議と長く残ります。先日、卒業生の一人が訪ねてきてくれた際、こんな話をしてくれました。
「先生、学校で習ったこともたくさん覚えていますが、3年目の連休中に自分で読んだ本が、いまだに一番役に立っています」
その本は、認知症ケアに関する専門書だったそうです。誰かに勧められたわけではなく、目の前の利用者さまにどう寄り添えばよいか分からず、書店で偶然手に取った1冊。「自分で必要だと思って選んだ知識」が、その方の介護観を形づくった――この話に、私は教員として大いに励まされました。
研修は知識の輪郭を作ります。しかし輪郭の中身を埋めていくのは、自分の意思による学びなのです。
連休中の「30分読書」が現場を変える理由
「忙しくて本を読む時間がない」――これは現場でよく耳にする言葉です。私自身、平日の夜は法人運営や翌日の準備で精一杯ですので、その実感はよく分かります。
だからこそ連休なのです。1日中読書をしてくださいとは言いません。朝のコーヒーと共に30分、それだけで十分です。連休の5日間で2時間半。これは平日に確保しようとすると、ほとんどの方にとって不可能に近い時間です。
そして30分の読書が現場を変える理由は、知識量の問題ではありません。「現場の出来事を意味づける言葉を持てるかどうか」の問題です。
たとえば「最近この利用者さまの様子が違う」と感じたとき、その違和感を「BPSDの初期サイン」と言語化できる職員と、「なんとなくそう思っただけ」と流す職員とでは、その後のケアの質に大きな差が生まれます。学びによって得られるのは、現場で起きている事象を捉え直すための “ものさし” なのです。
教員の立場からおすすめしたい3つのジャンル
書店に行くと介護関連の書籍は数多くあります。何を読めばよいか迷う方のために、教員として日頃学生に伝えている3つのジャンルを紹介します。
1. 自分の専門領域を「半歩深める」本
すでに介護福祉士・看護師・ケアマネジャーとして働いている方には、自分の専門領域を半歩だけ深く掘り下げる本をおすすめします。
「ゼロから学ぶ」ものではなく、「日々のケアで気になっていたあの場面」について、もう一段深い知見が書かれている本です。たとえば認知症ケアであれば、対応の技法だけではなく、当事者本人が書いた手記を読むことをおすすめします。「丹野智文 笑顔で生きる」「クリスティーン・ブライデン」――こうした当事者の声に触れることは、現場での表情の捉え方を確実に変えていきます。
2. 自分の専門の「外側」を覗く本
二つ目は、あえて自分の専門から少し離れた本です。介護職の方であれば医療やリハビリ、ケアマネの方であれば栄養学や作業療法、看護師の方であれば社会福祉援助技術――。
なぜ「外」を覗くことが大切なのか。それは、多職種連携が形だけのものにならないためです。他職種が何を大切にし、どんな視点で利用者さまを見ているか――その輪郭を理解しているだけで、カンファレンスでの発言の質が変わります。「あの人は他職種のことが分かっている方だ」と思われるリーダーは、例外なく外側を覗いている方です。
3. 介護とは無関係に見える本
三つ目が、実は最も大切かもしれません。介護とまったく関係のない本です。
歴史小説、経済書、哲学書、絵本、漫画――何でも構いません。私自身、介護経営の判断に詰まった際、思いもよらない場面で経営書ではなく司馬遼太郎の小説の一節に背中を押されたことが何度もあります。
介護の仕事は「人を相手にする仕事」です。人を理解する力は、介護の本だけからは生まれません。人間というものの奥行きに触れる経験そのものが、目の前の利用者さまへの眼差しを豊かにしていきます。学生にもよく伝えるのですが、よい介護職になりたいのであれば、よい人間になるしかない――これは私の偽らざる本音です。
「読みっぱなし」を防ぐ、たった一行の習慣
ここで一つだけ、教員としての小さな提案を加えさせてください。
連休中に本を読んだら、読み終えた直後に “一行だけ” メモを残す習慣をおすすめします。スマートフォンのメモ帳でも、手帳の片隅でも構いません。書く内容は、
- この本の中で、自分の現場に持ち帰りたい一点は何か
- 連休明け、最初の出勤日にどう試してみるか
たった2行です。これがあるかないかで、読書が「教養」で終わるか「実践」に変わるかが分かれます。学生に課題を出す際にも私が必ず添えるのが、この「一行コメント」です。インプットを行動に変える小さな仕掛けが、長期的に見ると大きな差を生みます。
ご家族のいる方へ ― 学びは “ひとり時間” だけのものではない
ここまで読んでくれた方の中には、「子どもが小さくて30分の読書時間も取れない」という方もいるかもしれません。
その場合は、お子さまと一緒に絵本を読むこと自体が、立派な学びになると私は思っています。絵本に込められた言葉の選び方、感情の扱い方、物語の構造――こうしたものは、すべて利用者さまとの関わりに通じるものです。
また、ご家族と過ごす時間そのものが、自分の 「介護される側の視点」を養う場 でもあります。介護の仕事は、家庭での自分のあり方と無関係ではありません。家族との時間も、立派な学びの時間です。
おわりに ― 連休明けの自分に、ひとつだけ持って帰る
ゴールデンウィークも、残り数日となりました。
あれもこれもと欲張る必要はありません。連休が明けたとき、何かひとつだけ “持って帰る” ものを決めてもらえればと思います。それが本の一節でも、家族との会話でも、散歩中に考えたことでも構いません。
介護の仕事は、毎日が消耗との戦いに見える日もあります。しかしその消耗を補ってくれるのは、給料でも休みの長さでもなく、「自分は学び続けている」という小さな自己効力感であるように、私は教員として、また経営者として感じています。
連休明けの現場で、皆さまの目が少しだけ生き生きと輝いていることを、楽しみにしています。
残りのゴールデンウィークも、よい時間となりますように。
木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役
北海道介護福祉学校 非常勤講師


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