リード
新年度が始まって、ちょうど1ヶ月。気がつけば明日からゴールデンウィークの本格的な連休に入る方も多いのではないでしょうか。新しい役割、新しい職場、新しいメンバー、新しい制度――「とにかく走り抜けてきた」という方ほど、今のうちに30分だけ立ち止まる時間を持つことをお勧めします。本日はキャリアコンサルタントとして、また介護現場の経営者として、新年度1ヶ月のセルフ棚卸しに役立つ「3つの問い」をお伝えします。GW初日のコーヒー1杯分の時間で十分です。
なぜ「1ヶ月目」の棚卸しが効くのか
人は走り続けると、「何のために走っているのか」を見失いやすい生き物です。介護現場は特にその傾向が強く、目の前の利用者対応・記録・会議・人手調整に追われ、自分自身のキャリアや働き方をゆっくり考える機会が失われがちです。
新年度の1ヶ月という節目には、3つの大切な意味があります。
- 記憶がまだ鮮明である:4月の出来事を具体的に思い出せる
- 修正がまだ間に合う:5月以降の動き方を変える余地がある
- 連休という区切りがある:気持ちを切り替える物理的なきっかけがある
このタイミングを逃すと、次に立ち止まれるのは夏の終わり、あるいは年末になってしまいます。
問い1:この1ヶ月で「自分らしさ」が出た瞬間はどこだったか
最初の問いは、ポジティブな振り返りから始めることをお勧めします。
「うまくいかなかったこと」から始めると、人は自己否定のスパイラルに入りやすいからです。まずは、4月のなかで「あ、これは自分らしい仕事だった」「自分の強みが活きた」と感じた瞬間を3つ書き出してみてください。
- 利用者から「ありがとう」と言われた場面
- 後輩に頼られた瞬間
- 困難な調整をうまくまとめられた会議
- 何気ない一言で空気が和んだ朝のミーティング
大きな成果である必要はありません。小さな「自分らしさが出た瞬間」こそが、今後のキャリアを考えるうえでの羅針盤になります。介護の仕事は数字で測りにくい価値が多い分、こうした主観的な手応えを言語化しておくことが、長く働き続ける力につながります。
問い2:この1ヶ月で「違和感」を覚えた場面はどこだったか
2つ目の問いは、違和感の言語化です。「うまくいかなかったこと」ではなく「違和感」と表現するところがポイントです。
違和感には、自分の価値観・働き方・健康・人間関係に関する大切なサインが隠れていることが多いものです。
- 会議で発言を飲み込んだとき、何を言いたかったのか
- 帰り道に疲れが残った日は、何が原因だったのか
- 「これでいいのかな」と感じた業務はどれか
- 新しい役割を引き受けたあと、楽しさと不安のどちらが大きいか
違和感を「不満」や「愚痴」として処理すると、心の中に澱(おり)としてたまっていきます。一方で「いま自分はこういう違和感を持っている」と言葉にできた瞬間、それは改善の種に変わります。1人で書き出すだけでも効果がありますが、可能なら信頼できる同僚やキャリアコンサルタントに話してみるとさらに整理が進みます。
問い3:5月の自分に「ひとつだけ」何を渡すか
3つ目の問いは、未来への小さな約束です。
たくさんの目標を立てると続きません。介護現場の毎日は変動要素が多すぎて、立派な目標は3日で空中分解してしまうこともあります。だからこそ「ひとつだけ」と絞ることが大切です。
例えば、
- 「5月は、利用者一人ひとりの名前を記録に書く前に必ず思い浮かべる」
- 「5月は、後輩に1日1回はポジティブな声かけをする」
- 「5月は、週1回30分だけ自分のための学びの時間を確保する」
- 「5月は、家族との夕食時間を週3日は守る」
仕事のことでも、私生活のことでも構いません。自分にとって意味のあるひとつの行動を決めることで、5月の毎日が少しだけ輪郭を持って動き出します。
経営者・リーダーへ ― 部下との「1ヶ月面談」のすすめ
ここまではセルフ棚卸しのお話でしたが、経営者・管理者の立場にある方にもう一つお伝えしたいことがあります。それは、新人・異動者との「1ヶ月面談」をGW明けに必ず持つことです。
評価面談ではなく、上記3つの問いをそのまま投げかける30分の対話で十分です。
- この1ヶ月で「自分らしさ」が出た瞬間は?
- 違和感を覚えた場面は?
- 5月の自分にひとつだけ何を渡したい?
新人が4月で抱える不安は、5月の連休中にしばしば離職検討の種へと姿を変えます。連休前ではなく、連休明けの早い段階で意図的に対話の場を持つこと。これだけで、若手の定着率は確実に変わります。私自身、過去に「あの面談がなければ辞めていました」と言われた経験が何度もあります。
おわりに ― 連休は走るための充電期間
連休は、頑張ってきた自分を労う時間であり、5月以降を走るための充電期間でもあります。せっかくの長い休みを「ぼんやり過ぎてしまった」で終わらせず、最初の30分だけ、自分自身と向き合う時間にあててみてください。
介護の仕事は、人と人との関わりが核心にあります。だからこそ、まず自分自身を整えることが、利用者にも、ご家族にも、同僚にも、最終的には地域全体にも還っていきます。
良いゴールデンウィークをお過ごしください。
木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役
北海道介護福祉学校 非常勤講師


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