本日早朝5時半少し前、北海道日高地方を震源とする地震が発生し、最大震度5強が観測されました。被害に遭われた皆様に心よりお見舞いを申し上げます。私自身、千歳の自宅で揺れを感じ、すぐに頭をよぎったのは、「今この時間帯、夜勤者一人で対応している事業所が地域にいくつもある」という現実でした。深夜から夜明けにかけての時間帯は、介護現場の体制がもっとも薄くなる時間です。今回は、この早朝の揺れを契機に、夜勤帯の地震に備えるための事業所の体制設計について考えたいと思います。
早朝5時半という時間帯で考えたこと
地震発生から夜が明けるまでの時間、現場で何が起きていたか。改めて想像してみてください。
多くの介護施設では、夜勤者は1ユニットあたり1名、夜勤の最終盤にあたるこの時間は、職員自身の疲労がもっとも蓄積しているタイミングです。利用者の多くはまだ就寝中で、即座に自力で避難できる方は限られています。日勤者の出勤は早くてもこの後1時間先。「もし建物に被害が出ていたら」「もし火災が発生していたら」「もし利用者が転倒していたら」 ― これらすべての判断を、夜勤者ひとりが担うことになるのです。
先日4月21日のブログでは三陸沖地震を契機に避難誘導の枠組みについて書きましたが、今日問うべきは違う論点です。「夜勤者を孤立させない仕組みが、自分の事業所にあるか」 ― この問いに、自信を持って「はい」と答えられる事業所はどれだけあるでしょうか。
夜勤帯BCP、ここを点検する3つの設計
1. 安否確認の優先順位を「迷わない形」で示す
地震直後、夜勤者がまず何をすべきか。「自分の安全確保 → 利用者の安否確認 → 建物・設備の点検 → 管理者への報告」という順序は研修で繰り返し伝えていても、いざ揺れた瞬間には頭が真っ白になるものです。
ポイントは、A4一枚の「夜勤者用フローシート」を夜勤者の手元に常備することです。「最初の3分で何をするか」「次の10分で何を確認するか」を時系列で示し、確認項目はチェックボックス形式にしておく。文章で覚えるのではなく、見ながら動ける形にすることが、判断負担を劇的に下げます。
2. 「夜勤者を孤立させない」連絡体制
夜勤者がもっとも恐れるのは、判断を一人で抱え込む状況です。震度5弱以上の揺れがあった場合、管理者・施設長から夜勤者へ自動的に連絡が入る仕組みを決めておきましょう。「夜勤者から連絡を上げる」ではなく「管理者から声をかける」という設計です。
連絡手段は電話だけでなく、LINEワークスやチャットアプリの活用も有効です。文字で残ることで、後日の振り返りにも活かせます。今回の早朝地震直後、「事業所のグループチャットに役職者から『大丈夫か』の一言が入ったかどうか」 ― この一点で、夜勤者の心の支えはまったく違ったはずです。
3. 出勤途上の職員の安全確保ルール
見落とされがちなのが、出勤途上にいる日勤者の安全です。早朝5時半は、調理員や早出職員がすでに移動を始めている時間帯です。「無理をして出勤しない」を事業所として明文化しているかを確認してください。
- 余震・道路崩落の危険があれば、出勤を中止して身の安全を最優先する
- 出勤可否は管理者が判断し、職員に指示する
- 勤怠上の不利益が一切生じないことを文書で示す
「使命感」で危険な道を出勤させてしまえば、その先で職員自身が事故に遭う可能性があります。職員の命を守る設計こそ、事業継続計画の根幹です。
連続する地震が問いかけているもの
4月21日の三陸沖、そして今日の日高地方。短期間に体感する地震が続いていることを、偶然と片づけるべきではないと思います。北海道は太平洋プレートの活動域にあり、千島海溝・日本海溝沿いの巨大地震は、政府の地震調査委員会も切迫性を指摘し続けています。
「BCPは年1回点検すれば足りる」という時代ではなくなっています。揺れるたびに、自分の事業所のBCPに照らして『今回うちはどう動けたか』を振り返る ― この習慣化こそが、本当の備えだと考えます。点検が「行事」になっていないか、いま一度問い直したいところです。
夜勤者の心理的負担に向き合う
キャリアコンサルタントとして職員の話を聴く中で、夜勤者から繰り返し聞いてきた言葉があります。「揺れた瞬間、誰にも頼れないのが一番怖い」というものです。
判断を一人で背負うことの重圧は、地震が落ち着いた後も心に残ります。BCP上の手順を整えるだけでなく、揺れた翌朝に「昨夜は怖かったね、よく動いてくれた」と声をかけることを、管理者の所作として大切にしていただきたいと思います。
事業継続計画は、紙に書かれた手順だけで成り立つものではありません。そこで働く一人ひとりが「自分は組織に守られている」と実感できているか ― ここが、最終的に組織の災害対応力を決めると考えています。誇りと安心感を持って夜勤に入ってもらえる職場づくりこそ、最良のケアの土台です。
明日から始める3つのアクション
- 本日の地震について、夜勤者を含めた全職員に「無事の確認」を一言かける ― 業務連絡の前に、まず人として
- 夜勤者用のA4一枚フローシートを今週中に作成・配備する ― 完璧でなくていい、まずは仮版を現場に渡す
- 次の管理者会議で「震度5弱以上で管理者から夜勤者に自動連絡」のルールを決める ― 仕組みは「決めること」から始まる
備えは、揺れの記憶が新しいうちに動くことで、確実に進みます。日高で被害に遭われた皆様の一日も早いご回復をお祈り申し上げるとともに、私たち一人ひとりが、自分の現場で何を整えるかを問い直す機会にしたいと思います。
木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)


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