介護記録に生成AIをどう活かすか ― 業務を減らし「ケアの言葉」を取り戻す

介護記録に生成AIをどう活かすか ― 業務を減らし「ケアの言葉」を取り戻す

「記録に追われて、ご利用者と向き合う時間が削られている」。この悩みは、私が関わる現場で長年聞き続けてきた声です。記録は介護の質を保証する大切な営みですが、同時に職員の大きな負担でもあります。生成AIの登場は、この長年の課題に新しい光をあてる可能性を秘めています。今回は、ChatGPTやClaudeに代表される生成AIを、介護記録の業務にどう取り入れるか、そして使う際に何を大切にすべきかを整理してお伝えします。

介護記録が抱える3つの構造的課題

現場で記録が重荷になる背景には、はっきりとした構造があります。

第一に、書く量の多さです。バイタル、食事、排泄、入浴、特変、ケース記録、ヒヤリハット ― 一人の利用者について、一日に複数の記録媒体に書き分ける事業所も少なくありません。

第二に、書き手によって質がばらつくことです。経験の浅い職員は事実の羅列にとどまり、ベテランは省略しすぎる。読み手にとって価値のある記録になっているかどうかは、書き手の熟練度に大きく左右されます。

第三に、書く時間が「余白」に押し込まれることです。ケアの合間や勤務終了後に書かれる記録は、どうしても疲労の影響を受け、文章が雑になりがちです。

これらは「気合い」で解決できる問題ではありません。仕組みで解いていく必要があります。

生成AIに任せられる3つの仕事

生成AIをすべての場面で使う必要はありません。得意な領域に絞って任せることが、現場で根づかせるコツです。

1. 記録の「たたき台」をつくる

職員が箇条書きでメモした事実(「10時 入浴拒否、声かけ3回、最終的に足浴のみ実施」)を生成AIに渡し、記録様式に沿った文章に整えてもらう使い方です。最終的に書き直すのは職員自身ですが、白紙から書くのと比べて圧倒的に時間が短縮されます。

2. 不足している観点を指摘してもらう

書き終えた記録を生成AIに読ませ、「アセスメント上、追加すべき情報はあるか」と尋ねる使い方です。「身体状況は書かれていますが、ご本人の言葉や表情の記載がありません」といった指摘が返ってきます。第三者の視点を借りる仕組みとして機能します。

3. 用語の統一と表現の整え

事業所ごとに使うべき用語のルール(例:「徘徊」ではなく「ひとり歩き」)を生成AIに学習させておけば、記録の表現を一括で整えることができます。研修で繰り返し伝えても定着しなかった用語の徹底が、技術で実現できる時代になりました。

導入時に外してはいけない3つの注意点

便利な技術ほど、使い方を誤ると現場を混乱させます。次の3点を守ってください。

第一に、個人情報の取り扱いです。 利用者氏名・生年月日・住所などをそのまま生成AIに入力するのは厳禁です。事業所として契約した法人向けのAIサービスを使うか、入力時に氏名をイニシャルや仮名に置き換える運用を徹底しましょう。先日のブログでも取り上げたとおり、セキュリティポリシーを職員全員で共有することが前提です。

第二に、AIの出力を「確認なしで採用しない」ことです。 生成AIは、もっともらしい文章を作るのが得意ですが、事実に反する内容を自然に書いてしまうこと(ハルシネーション)があります。記録の最終責任は人にあります。AIは下書きを作る存在であり、判断する存在ではありません。

第三に、職員の「書く力」を奪わないことです。 AIに丸投げを続けると、若手職員が観察・記録・考察を自分の頭で行う機会を失います。「AIにたたき台を作らせ、人が考えながら整える」という関わり方を、研修やOJTのなかで丁寧に伝える必要があります。

「ケアの言葉」を取り戻すという視点

ここまで業務効率化の話をしてきましたが、私がもっとも伝えたいのはここからです。

キャリアコンサルタントとして職員の話を聴くなかで、「記録を書く時間そのものが、自分のケアを振り返る貴重な時間だった」と語る方に何度も出会ってきました。記録を書きながら、「あの場面で自分はどう関わったか」「次はどうしたいか」を言葉にする ― それは、専門職としての成長プロセスそのものです。

生成AIに記録の作業時間を減らしてもらうことの意味は、単に「楽になる」ことではありません。削減された時間を、利用者と向き合う時間や、自分のケアを言葉にする時間に取り戻すことにあるのです。AI・テクノロジーは人の代わりではなく、人が本来のケアに時間を割くための道具。この姿勢を見失わずに導入を進めていきたいと考えています。

明日から始める3つのアクション

  1. 記録様式を1つ選び、生成AIで「たたき台」を作る試行を1週間行う ― いきなり全記録ではなく、申し送りやケース記録など1種類から
  2. 個人情報の入力ルールを文書化する ― 「フルネーム不可・施設名不可」などを職員全員に共有
  3. 削減できた時間の使い道を職員と話し合う ― 「何にその時間を充てたいか」を本人の言葉で語ってもらう

技術の話でありながら、最後は必ず「働く人と利用者にとっての意味」に立ち戻る ― それが、現場でAIを根づかせる王道だと考えます。


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)

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