介護事業所のBCPを「紙」で終わらせない ── 新年度に全職員で点検する実践フレーム

介護事業所のBCPを「紙」で終わらせない ── 新年度に全職員で点検する実践フレーム

2024年4月から、介護事業所には業務継続計画(BCP)の策定と、年1回以上の研修・訓練が義務化されました。あれから2年。現場を回っていると、「厚い冊子が棚にあるけれど、誰も開かないんです」という声に出会うことが少なくありません。新入職員が入り、組織が動き出す4月は、紙の上で眠っているBCPを“生きた計画”に戻す絶好のタイミングです。本稿では、経営者・管理者として押さえたい点検フレームと、地域連携を織り込んだ運用の工夫を整理します。

なぜ「4月」にBCPを見直すのか

義務化から2年が経ち、多くの事業所で一度はBCPが整備されました。しかし、計画は作った瞬間から古くなります。4月に点検すべき理由は三つあります。

第一に、人が入れ替わる月だということ。新入職員・異動者が加わり、連絡網・役割分担・役職者の顔ぶれが変わります。ここを更新しないまま夏を迎えると、実災害時に連絡が止まります。

第二に、前年度の経験を整理できる最後の機会だということ。昨年の訓練や小さなヒヤリハット、台風・大雪時の対応記録を、担当者が記憶しているうちに棚卸ししておきたい。

第三に、季節災害への逆算です。出水期は6月、台風期は8〜10月、冬期停電は12〜2月。4月に見直して5月に訓練、というスケジュールが現実的です。

BCP点検の「5つの観点」

現場で使える点検の切り口を5つに絞って整理しました。

  1. 連絡網の精度 ── 新人の携帯番号は登録済みか。退職者は削除されているか。夜間管理者の代行者まで辿れるか。
  2. 役割分担の実効性 ── 夜勤帯・休日帯・管理者不在時に、誰が指揮を執るかが明文化されているか。
  3. 備蓄の棚卸し ── 食料・水・おむつ・内服薬・燃料・紙カルテ用の筆記具まで、賞味・使用期限を確認。
  4. 訓練の質 ── 机上訓練だけに留まっていないか。事務職・管理栄養士・送迎職員も参加できているか。
  5. 地域連携先との合意 ── 近隣施設・医療機関・行政との協定書が最新化されているか。

この5点を一覧表にして、各ユニットリーダーにチェックを任せるだけでも、BCPは一気に息を吹き返します。

地域連携こそがBCPの生命線

私がいちばん強調したいのは、単独施設で災害を乗り切る時代は終わったという認識です。職員が被災して出勤できない、電気が止まり経管栄養が回らない、水が断たれて入浴ができない──こうした事態は、一事業所では抱えきれません。

平時からの「顔の見える関係」が、災害時の最初の一報を可能にします。具体的には、

NPO法人ちとせの介護医療連携の会でも、圏域内で情報共有の場を重ねています。「困ったときに電話できる顔」を事前に何人作れているかが、BCPの真の強さを決めます。

現場を巻き込む「参加型訓練」の設計

BCPが形骸化する最大の原因は、訓練が一部の管理職だけのものになっていることです。以下の工夫で、参加型に切り替えられます。

「やらされ訓練」ではなく、「自分が考え、提案し、改善に反映された」という手応えが、次の訓練への参加意欲を生みます。

BCPは、人のキャリアと地域をも守る

最後に、キャリアコンサルタントとして一言添えます。

BCPというと「事業継続」の話に聞こえますが、その本質は利用者の命を守り、同時に、職員が安心して働き続けられる基盤をつくることにあります。災害時に指示系統が混乱し、現場職員だけに過重な判断を負わせる組織は、たとえ平時に戻ってもその信頼は揺らぎます。逆に、訓練を重ね、情報が共有され、自分の役割が明確な職場では、職員は「ここで働き続けたい」と感じます。

事業継続は、働く人のキャリア継続でもある。そして、地域の高齢者と家族の暮らしの継続でもある。BCPは、三つの“継続”を束ねる経営マネジメントの中核です。

明日から始める3つのアクション

  1. BCPを印刷し、新入職員と読み合わせをする(10分でよい)
  2. 今月中に、近隣1施設とBCP相互応援の顔合わせを設定する
  3. 6月までに、夜勤帯を想定した実地訓練を1回計画する

「紙で終わらせない」と言葉にする経営者・管理者が一人増えるだけで、地域の安心は確実に厚くなります。新年度の忙しさの中でも、BCPは後回しにしない。そこにこそ、介護事業所の社会的責任と、働く人を守る覚悟が表れると、私は考えています。


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)

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