4月、介護現場は「書類の海」に沈む
新年度が始まって3日目。介護の現場では、まさに今この瞬間も、膨大な事務作業に追われている管理者やリーダーがいるはずです。
新入職員の雇用契約書、研修計画の作成、利用者への重要事項説明書の更新、処遇改善加算の実績報告、ケアプランの見直し、各種届出書類──。数え上げればきりがありません。
私自身、特別養護老人ホームの施設長をしていた時などは、この時期の事務量の多さには毎年頭を抱えてきました。「本当は利用者のそばにいたいのに、パソコンの前から動けない」。そんな管理者の声を、何度も聞いてきました。
今日は、そんな新年度の事務作業を少しでも軽くするために、私が実際に取り組んでいるAI活用法をお伝えします。
AIは「仕事を奪うもの」ではなく「一緒に考えてくれる仲間」
「AIを介護に使う」と言うと、まだ多くの方が身構えてしまいます。「難しそう」「うちの職員には無理」「そもそも介護にAIなんて必要なの?」──そうした声は、私の周りでもよく聞きます。
正直に言います。私も最初はそう思っていました。
しかし、ChatGPTやClaudeといったAIツールを実際に使い始めて、考え方が変わりました。AIは人間の仕事を奪うものではありません。「もう一人の仲間」として、一緒に考え、一緒に作業してくれる存在です。
特に、文書作成や情報整理といった「頭を使うけれど、創造性よりも正確さと効率が求められる作業」において、AIの力は絶大です。
実践例1:研修計画の「たたき台」を10分でつくる
新年度に必ず求められるのが、年間研修計画の作成です。法定研修の項目を網羅しつつ、事業所の課題に合わせた内容にカスタマイズする。これだけで半日かかる作業でした。
今は、AIに「介護事業所の年間研修計画のたたき台を作ってほしい。法定研修を含め、認知症ケア、接遇、感染症対策、虐待防止を重点テーマにしたい」と伝えるだけで、10分もかからずに骨格ができあがります。
もちろん、AIが出してきたものをそのまま使うわけではありません。事業所の実情に合わせて修正し、職員の声を反映させるのは、あくまで人間の仕事です。しかし、ゼロから作るのと、たたき台を修正するのとでは、負担がまるで違います。
浮いた時間で、新入職員と話をする時間ができる。それが、AIを使う本当の意味だと私は思っています。
実践例2:会議の議事録を「要点整理」する
4月は会議が増える時期でもあります。新年度の方針共有、各部門との調整会議、地域の連携会議。一つひとつの会議の後に議事録を作成するのは、地味ですが確実に時間を食う作業です。
私は最近、会議のメモや音声データの要点をAIに整理してもらう方法を取り入れています。「以下の会議メモから、決定事項・次回までのアクション・担当者を整理してほしい」と指示すると、構造化された議事録の骨格が数分で出来上がります。
北海道介護福祉学校の講義準備でも同様です。講義内容の要点整理や配布資料のドラフト作成にAIを活用することで、本来注力すべき「学生への伝え方」を考える時間を確保できるようになりました。
実践例3:制度改正のポイントを素早く把握する
介護保険制度は、3年ごとの改正に加えて、随時の通知や解釈の変更があります。新年度はまさにこうした制度変更が適用されるタイミングであり、管理者は最新の情報をキャッチアップしなければなりません。
膨大な通知文書や資料を一人で読み込む時間がない。そんなとき、AIに「この資料の主な変更点を箇条書きで整理してほしい」「前年度との違いを比較してほしい」と依頼すると、要点を効率的に把握できます。
ただし、制度に関する最終的な判断は必ず原文を確認し、必要に応じて行政に問い合わせることが鉄則です。AIはあくまで「理解の補助」であり、判断の代替ではありません。この線引きを忘れないことが、AIを安全に使うための大前提です。
「使ってみる」ことから始めてほしい
AIの活用というと、大げさなシステム導入をイメージする方もいるかもしれません。しかし、私が日々実践しているのは、パソコンやスマートフォンから無料で使えるツールを活用する、ごくシンプルな方法です。
大切なのは、完璧を目指さず、まず「一つの作業」で試してみることです。
来週の会議の議事録でもいい。職員向けのお知らせ文の下書きでもいい。何か一つ、AIに手伝ってもらう体験をしてみてください。
私自身、最初に試したのは簡単なメール文面の作成でした。それだけのことでしたが、「これは使える」と感じた瞬間の驚きは今でも覚えています。あの小さな成功体験が、その後の活用を広げる原動力になりました。
テクノロジーは「人がより人らしく働く」ための道具
NPO法人ちとせの介護医療連携の会の理事長として、地域の多職種連携の場に立つ中で、いつも感じることがあります。
介護の本質は、人と人との関わりの中にある。
利用者の表情の変化に気づくこと。ご家族の不安に寄り添うこと。多職種で一つのケースについて真剣に話し合うこと。これらは、AIには決してできない、人間だけの仕事です。
だからこそ、AIに任せられる事務作業はAIに任せ、人間は「人にしかできないこと」に時間を使うべきだと考えています。テクノロジーは、人を置き換えるためのものではありません。人がより人らしく、温かく、丁寧に働くための道具です。
新年度の忙しさに追われるこの時期だからこそ、一度立ち止まって考えてみてください。「この作業、AIに手伝ってもらえないだろうか?」と。
その問いが、あなたの現場を少しだけ楽にしてくれるかもしれません。そして、楽になった分だけ、利用者さんのそばにいる時間が増えるかもしれません。
それが、私がAI活用を勧める、たった一つの理由です。
木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役/管理事業部長
北海道介護福祉学校 非常勤講師


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